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MONOCO JOURNAL

《インタビュー》世界一お洒落な男たちの「美学」

サプールは、なぜ高級ブランドに身を包むのか

日本とほぼ同じ面積を持つ国が、アフリカ大陸にある。コンゴ共和国は、世界最貧国の一つと言われ、国民の平均月給は2万5000円。3割の人々が1日の生活費を130円以下で暮らす。

その貧しさの中で、
年収の平均4割を海外の高級ブランド服に使う、”世界一お洒落な男たち”と呼ばれる集団がいる。その名は「サプール」だ。



2016年4月、日本人カメラマン・茶野邦雄氏が撮り下ろしたサプールの写真集『THE SAPEUR 〜コンゴで出会った世界一お洒落なジェントルマン〜』が出版された。それを記念して、サプール歴46年、大サプールと慕われるムイエンゴ・ダニエル氏(61歳、通称セヴランさん)が来日。分刻みのスケジュールのなか、MONOCOで貴重なインタビューの機会を得られたので、彼らの生き方をご紹介したい。




サプールとは?

サプール(SAPEUR)とは、「お洒落で優雅な紳士協会」という意味のフランス語の頭文字を省略したものである。そして彼らのファッションは、サップ(SAPE)と呼ばれている。

奇抜な色使いが目を引くサップだが、3色以内でコーディネートすることが原則彼らは全身を高級ブランドで固め、自宅から目的地(教会のほか、会員制のバーやナイトクラブが多い)までの間、街中を気取ったポーズをしながら歩く。これは彼らを一目見ようと家から出てきた見物客たちの目を楽しませるための、サップが考えるエレガントな紳士の作法である。

彼らは人から見られていることを意識して、洋服はもちろんのこと、目線、歩き方、全ての動き方に神経を使う
着ている洋服のブランドのタグを見せびらかすことも彼らの流儀だ。



写真集にはコンゴの街中も写されているが、彼らの服装はどう見ても特異だ。豊かな暮らしではないのに、なぜ高級ブランド服に身を包むのだろうか?

この地にサプールが生まれたのは約90年前。発祥については諸説あるが、サプールを理解する大前提として「カトリック信仰」がある。1880年代にヨーロッパ列強国によるアフリカ諸国の植民地争いに巻き込まれたコンゴ人にとって、平和への想いは強く、カトリック信仰とともに平和主義者が増えていった。

そこに、当時の情勢(フランスから戻ったコンゴの社会活動家アンドレ・マツワが、パリの紳士の格好をしていたことでコンゴ人たちの賞賛を浴び、パリに対する憧れが芽生えた)などから、自分たちの平和信仰を「ファッション」と結びつけて表現することになり、これがサプールの発祥につながっていったとも考えられている。

暴力反対を唱え、今ではコンゴの平和の象徴となっているサプールは、その多くが敬虔なカトリック教徒だ。平日は、街の人たちと変わらない服装で仕事に励むが、土日の礼拝になると、時間をかけて選び抜いた、とっておきのコーディネートに全身を包んでお洒落する。その際、ただお洒落なだけではなく、美しい所作を伴わなくてはならない。それらは全て、人を敬い、人から尊敬される存在でなくてはならないという、サプールが考える紳士の在り方に基づいている。

そんなサプールは、コンゴ人たちにとってのヒーロー的な存在であり、歩いている時に賞賛の声をかけられることは茶飯事だ。賞賛されたら格好悪くは生きられない。紳士であることを掲げるサプールにとって、自分たちの思想やファッションは、自分のあるべき姿を常に問う「行動指針」でもある


サップとは、どのように生まれ、進化してきたのか

1882年にフランスの植民地となり、1960年に独立を果たしたコンゴ共和国。フランスの植民地となったアフリカ諸国は他にもあったが、なぜコンゴにだけサプールが生まれたのだろうか。セヴランさんに、その疑問をぶつけてみた。



「入植者たちが来る前から、コンゴ人にはもともとファッションに対しての意識があり、すでにスタイリッシュに服を着ていました。その後、入植者たちがやってきて彼らの服を持って来た時、私たちは、それまでの服を捨てて、彼らに渡されたり持ち込まれたものを着るようになり、そこに自分たちのセンスを合わせたのです。

私たちは、彼らが来る前から、自分たちのテイストや美的感覚があった。すでにサップに対しての興味があったんです
。」


ーなるほど、サプール独特の色使いには、コンゴ人の美意識があるようだ。

私たちにとって重要なのは、色です自然を見ても、例えばカラスとオウムはどちらが綺麗だと思いますか? 間違いなくオウムです。カラスは黒と白ですが、オウムは様々な色の羽があって綺麗ですよね?
 
私たちにとって、色はとても良いものです。黒と白は一般的に、式典であったり、喪に服す時の色。だから、私は色がある方が好きです。」




ーコンゴを植民地にしたフランスのことは、憎くないのだろうか。

コンゴ人にとって、パリは父親みたいなものです。その父親が、たとえ悪い父親であったとしても、常に愛さないといけない。だから、パリのファッションを取り入れているんです。彼らが私たちの入植者であり、私たちを先導していたから。

コンゴとフランスの関係は、親子の関係のように、良い父親じゃなくても憎まれないんです。彼らは色々なことを教えてくれたし、スタイルについても同じように教えてくれたんです。」


ー女性にもサプールはいるということで、セヴランさんの奥様について聞いてみた。

「彼女はサプールではありませんが、私のアドバイザーです。私が服選びをしているときに、「そのネクタイはやめて、こっちにしなさい」と教えてくれます。

彼女は昔サイトロペという、スタイリッシュな人が多い地域に住んでいました。彼女も若い時にとてもおしゃれで、非常にセンスがありました。サプールという仕事をよく理解してくれていて、彼女とはお互いに本当に息がぴったり合っています。」


ー写真集には、葉巻やパイプを口にくわえるサプールも多く登場する。しかし、それらはあくまでもファッションアイテムであり、TPOをわきまえ、出る煙を気にして、火を付けてもほぼ吸わないサプールも多いそうだ。



「私はタバコは吸わないし、吸う人も好きではありません。パイプを持っているのは、アクセサリーとしてであって、吸うことは決してありません。私は、人にタバコや葉巻を吸わせようとは思っていないんです。このパイプは、ただ手に持つためだけで、火はつけません。」


なぜ貧しいのに、サップをするのか?



世界最貧国と言われながら、サプールたちは何故、そしてどのように高級な洋服を手にしているのだろうか?

セヴランさんは、退職前は省庁の公務員だったため、コンゴ人のなかでは比較的お金に余裕があるそうだが、サプールの多くは長大な時間を労働に費やして、洋服を買うためのお金を稼いでいる。街中にある洋服店で分割払いで購入することが多いが、日本の月賦払いとは真逆のシステムであり、洋服店に全額を入金し終えないと商品を手に入れることはできないそうだ。

「サプールになるために、服を買いたい」その一心で仕事を見つける人もいる。サプールになる前は、暴力や喧嘩が日常的だった彼らも、サプールとして生きることで、心が穏やかになり、人が変わっていくという。


(写真)父親や祖父の影響を受けて、幼い頃からサプールになる子供もいる。

「サプールは、世の中が平和だからこそできること」と、セヴランさんは言う。彼がそれを改めて悟ったのは、1997年に起こった2度目の内戦だった。

当時サプールだった人々は、セヴランさんも含めて、もはやサップではいられない状況だった。3日で終わると思った内戦は1年にも及び、その後家に戻ると、盗まれないようにと庭を掘って埋めた衣類や靴は、土の中で朽ち果てていた。

「平和なしでサップもない。サップなしで発展もない。そして周りの環境も良くならない。誰も得する人はいません。経済的にも物理的にも人道的にも。平和を守るにはサプールが必要なのです。もし洋服か武器かという選択肢があったとしたら、みんな洋服を選ぶのではないかと思います。」ーNHK『地球イチバン』~世界一、服にお金をかける男たち~放送回より、セヴランさんの言葉を引用


サプールから見た日本人について

今回の写真集は、日本人である茶野氏が撮影しているが、以前にもイタリア人のカメラマンによって撮影された写真集が出版されている。セヴランさんから見て、日本人に撮影されたことをどう思うかを聞いてみた。

「茶野さんは私の友達になりました。彼は、私にきちんと連絡をくれましたが、最初のカメラマンは私に連絡してこなかった。私のイメージは盗まれたんです。最初の写真集の中に自分の姿があるということだけでびっくりします。

でも茶野さんの場合は、私に連絡してくれたので、一緒に仕事をしました。私は茶野さんを尊敬しています。彼には、私の部屋も見せたんです。(セヴランさんの部屋が写っているページを見せながら)これです、私の部屋です。自分の部屋で自分の服に囲まれています。これが友達ということです。」




ーインタビュー時は、茶色のスーツを着てシックに決めていたセヴランさんだったが、来日して、日本人の服装をどう感じたのだろうか?



「日本人のスタイルには、とても感心しています。とても面白いと思うし、服の着こなしもいい。唯一僕が言えるのは、もう少しだけアクセサリーを取り入れたほうがいいということです。それ以外は、大丈夫。スープに少し塩を入れるみたいに、ちょっと足すだけ、つけくわえるだけ。

アクセサリーも、既に自分が知っているものを使えばいいんです。(自分の胸元を指差しながら)ラペルピンに使った東京タワー、ポケットチーフの白、これら全ては色を持っています。
クセサリーをつける行為には、色という技を使うんです

ーインタビューの最後に、日本で印象に残ったところを尋ねた。

「南青山にあるブリフトアッシュという靴磨き屋に連れて行ってもらったんですが、そこが一番私の印象に残りました。そこにいる人たちは皆、とてもエレガントでした。」


サップは国・人種を超えて、生き方にヒントを与えてくれる。

1970年代、その服装によって政府から不良扱いを受けていたサプールだが、彼らの紳士的な振る舞いは政府にも認められ、今では国の式典などにサプールが参加することも目立つようになった。「武器を捨てエレガントに生きる姿」が、国の未来をも変えようとしている。

取材を終えた後、都内で行われていたサプールの写真展(現在は終了しています)に足を運んだ。全てを鑑賞した時、白鳥とサプールの生き方が重なって見えた。白鳥は、外から見ると優雅に泳いでいるように見えるが、実際の水面下では必死に足をバタつかせることで浮遊を保つ。

人間なら誰しも、生活や心の内で笑顔ではいられない時も多くあるだろう。しかし、そこで落ち込んだり疲れた表情を見せる代わりに、周りの人々に元気を分け与えるように、華やかなファッションに身を包み、エレガントな振る舞いをする。

目の前の現実を変えることはできなくても、自分を変えることはできる。過酷な戦争を経験し、そこからは何も生まれないことを肌で感じ取ってきたサプールたちは、武器を捨ててエレガントに生きること、平和を愛し、人に優しくすることを決意した

彼らの今の武器は、サップというファッションを通して、己の思想を体現することだ。美しくも逞しく生き抜くサプールたちの姿は、私たちに毎日をどう生きるべきかを教えてくれているようだ。



セヴランさんは、写真集の中でこう言っている。
「サプールでいることによって、人生で失った多くのものを取り戻しました。サプールの服装をしていると、私は天空にいるように感じます。まるで空を飛んでいるような気分です。」

~Special Thanks To~※敬称略
吉田洋志、長嶋瑞木(オークラ出版)
コーディネーター:田中開
場所提供:B&B







 Editor's Note

山本 映利奈
今回出版された写真集『THE SAPEUR 〜コンゴで出会った世界一お洒落なジェントルマン〜』は、 MONOCOでも購入いただけます。

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※本キャンペーンは終了しました。たくさんの方にご応募いただき、誠に有難うございました。



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